閉じる

6,962view

詐欺行為で逮捕されるケースとは?〜知らないだけで犯罪かも?⑨

この記事で分かること

  • 詐欺行為はたとえ未遂でも罪に問われる。
  • オレオレ詐欺などの特殊詐欺が横行しています。
  • 詐欺罪は示談で解決できることもあります。

詐欺罪が成立するためには、人を騙して錯誤させ、交付によって財物を移転するという流れが必要になります。どの時点から詐欺行為が始まったかなど刑事事件としては判断が難しい犯罪です。

詐欺罪とはどんな犯罪なのか

「それは詐欺みたいなものだ!」と、日常でもよく言うように、「詐欺」という言葉は私たちの生活の中に浸透していると言っていいでしょう。しかし、刑法でいう詐欺罪は懲役10年もある重い罪です。いったいどのような犯罪なのか見ていきましょう。

詐欺とほかの財産犯との違い

詐欺罪は人を欺いて財物(財産上の利益)を交付させる罪です。詐欺罪の構成要件は①人を欺いて、②財物を、③交付させたこと、④それにより財産上の損害が生じたこと(246条1項の場合)です。法定刑は10年以下の懲役です。

窃盗罪と違って、詐欺罪は財物を「交付させる」行為が伴います。つまり、財物を無理やり奪うわけではなく、人を騙して被害者自ら財物を加害者に差し出させることが要件となります。

恐喝と詐欺

恐喝罪(249条)は相手方の交付があるという点では詐欺罪と共通しています。しかし交付の手段が恐喝(暴行・脅迫)であり、交付の手段が欺罔(相手を騙すこと)である詐欺罪とは異なります。

詐欺罪にもいろいろある

一口に詐欺と言っても、いくつかの類型があります。どのような詐欺があるのか説明しましょう。

財物について成立する1項詐欺

一般に「1項詐欺」と呼ばれる類型です。欺罔行為で相手方に財物を交付させるものです。「財物」は有体物を指し、電気も財物とみなされます(251条・245条)。

財産上の利益について成立する2項詐欺

「2項詐欺」は財産上の利益について成立します。構成要件は①人を欺いて、②財産上不法の利益を、③得たこと、又は他人に得させたこと、です。財産上の利益とは、財物以外の財産上的利益の一切を指すと考えてよいでしょう。

準詐欺

準詐欺(248条)は相手が十分な物事を考える能力を持っていないのを利用して、欺くほどではない程度の行為で財物や財産上の利益を得る犯罪です。構成要件は①未成年者の知慮浅薄または人の心神耗弱に乗じて、②その財物を、③交付させ、又は人の財産上不法の利益を得、若しくは他人に得させた、ことです。欺罔行為(欺く行為)を用いたら詐欺罪が成立します。法定刑は詐欺罪と同じです。

詐欺罪の詳細な要件、欺罔の意味など

どのような行為が詐欺罪に該当するのか、構成要件について詳細にみてみましょう。

「人」の意味

詐欺罪の騙す相手はどういう人なのでしょうか。単純に考えれば1項詐欺なら「財物を所有又は占有する人」と言えそうですが、必ずしもそれだけではありません。騙された人と被害者(財産的損害を受けた人)が一致しない場合でも詐欺罪は成立します。その場合は「被欺罔者(騙された人)において被害者のためにその財産を処分しうる機能または地位のあることを要する」(最判昭和45年3月26日)とされています。つまり、1項詐欺のいう「人」とは財物の所有者又は占有者、その財物について処分する権限や地位を有する者と言えます。

欺いて=欺罔の意味

「欺いて」とは相手方を錯誤に陥らせることを言います。錯誤に陥った結果、欺罔行為者の希望するような財産的処分を行わせることが詐欺罪の成立においては必要になります。「人を欺いて」という条文は旧規定では「人ヲ欺罔シテ」とされていました。欺罔(ぎもう)というのは聞きなれない言葉ですが、簡単に言えば人を騙すこと、欺くことです。現在でも法律関係者は「欺罔して」「欺罔行為」などと頻繁に使います。

交付の意味

交付があったと言うためには、相手の処分行為の結果として欺罔行為者側に財物の占有が移転することが必要です。そして欺罔行為に基づいて相手が錯誤に陥り、その結果、財物を交付したという一連の因果関係が必要です。たとえば遊ぶ金ほしさに返済の意思もないのに「親が死んだので故郷に帰りたいが、持ち合わせがない。10万円貸してほしい」と頼み、相手がその真意を見破ったものの(いつも嘘ばかり言って、あわれなヤツだ)と憐れみの心から10万円を渡した場合は、欺罔行為と交付はありますが相手方は錯誤に陥っていません。そこで前出の欺罔と交付の因果関係が切れ、詐欺罪の未遂(246条1項、250条)となります。

財産的損害の意味

詐欺罪が財産犯である以上、相手方に財産的損害が生じることは必要でしょう。財物の交付(1項詐欺)、財産上の利益の交付(2項詐欺)をすること自体が損害であると考えれば、交付によって損害が生じていると言えます。では相当な価額で売却した場合はどうでしょうか。

市価2100円のバイブレーターを、ある病気に非常に効果がある特別な機械であるとして2200円で売却したことが詐欺罪にあたるとした判例があります。常識的に考えて市価2100円の商品を2200円で売っても、100円の差は売る人のマージン等を考えれば適正な商売の範囲にあると言えるでしょう。しかし「たとえ価格相当の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において…相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は詐欺罪が成立する」(最決昭和34年9月28日)と判示されています。本来なら出さないはずのお金を出していることが損害と考えることはできるでしょう。あるいは買おうとしたのはある病気に効果がある機械であって、その効果がないのであれば財産的損害があると考えることもできるでしょう。

ワンポイントアドバイス
1987年に電子計算機使用詐欺罪が成立しました。コンピューターが人の代わりに財産権の得喪などの処理を行っている場面で、システムを悪用して財産権を侵害した場合、電子計算機使用詐欺罪が適用されます。法定刑は詐欺罪と同じです。

近年の詐欺と関連法規

近年は架空請求やオレオレ詐欺と呼ばれるような類型の詐欺罪が増えています。また、それに関連する法規も多く制定されています。

オレオレ詐欺などの特殊詐欺

刑法には「特殊詐欺」という言葉は出てきませんが、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込その他の方法により、現金等をだまし取る詐欺のことを呼んでいます。警察庁ホームページには、特殊詐欺は振り込め詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺)及び振り込め詐欺以外の特殊詐欺(金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺)を総称したものとしています。昨今増加している相手の顔の見えない電話やネットを使った詐欺の総称と言えそうです。

特殊詐欺の発生件数と被害額

特殊詐欺は国民の多くに被害が広がっているのが現状です。2016年1月から11月までの期間で、認知件数が1万2680件、被害額が368億円でした。被害額は前年に比べ60億円程度減少していますが、認知件数ではプラス368件と増加しています。深刻な状態が続いているのは確かなようです(警察庁ホームページより)。

特殊詐欺に関する主な法律

特殊詐欺を防止するため、あるいは詐欺師集団に活動をさせないようにするため、いくつかの法律が利用されています。

犯罪による収益の移転防止に関する法律

振り込め詐欺などで、他人名義の銀行口座が利用されることが多いため、不正利用を防止する目的で口座を譲り渡したり、譲り受けたりすることを禁じています。

振り込め詐欺救済法

正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払い等に関する法律」です。これは振り込め詐欺にかかり、支払いを行ってしまった被害者が銀行に連絡することで、いくつかの手続きを経て口座を凍結する制度です。そして残高の中から被害回復分配金を受け取ることができます。

組織犯罪処罰法

正式名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」です。組織的な刑罰の加重や、マネーロンダリングの行為を処罰することなどを定めています。組織として詐欺を行っていた場合、1年以上の有期懲役を科すことができます(刑法の詐欺罪は懲役10年以下)。

ワンポイントアドバイス
詐欺がたとえ未遂であっても罪になります。人を騙そうとした時点で、すでに詐欺を行ったことになるのです。

もしかして自分も詐欺罪に

刑法犯と聞くと自分とは無縁のものと感じるかもしれません。しかし、少しのことでも詐欺罪が成立してしまうことはあります。

日常生活の中で相手の誤解で思わぬ利得を手にすることがあります。そんな時、詐欺罪が成立しているかもしれません。

釣り銭を多くもらった場合、詐欺罪が成立か

買い物をした時に、店員が間違えて多くお釣りを渡してしまうときがあります。それに気づいたとき、通常は「多いですよ」と指摘をすると思いますが、中にはそうしない人もいるかもしれません。

たとえば、コンビニエンスストアで1000円の買い物をし、5000円を出したところ、店員が1万円札と勘違いして9000円のお釣りを手渡したとしましょう。この場合、もしお釣りが間違っていることに気づいていたのに、黙って持ち去ったら占有離脱物横領罪(254条)が成立します。

店員が渡す時に店員のミスに気がついていたのに、9000円を受け取って領得した場合は1項詐欺罪が成立すると考えられています。これは信義則上、釣り銭が間違っていることを告知する義務があるのに、それをしなかったからです。

他人名義のクレジットカードを使用

他人名義のクレジットカードを使う行為は詐欺罪にあたります。仮に名義人の了承があっても詐欺罪になります。通常、クレジットカードは名義人本人以外の使用を許していません。そのため加盟店はカードの提示者が名義人と信じており、名義人でない者が名義人になりすます行為は欺罔行為となります。それによって財物(商品)を交付していますから、損害も発生しています。判例は「本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない」(最決平成16年2月9日)と判示しています。

無銭飲食でも詐欺罪成立

無銭飲食の場合、最初から支払う意思がない場合には、料理等を注文・飲食した時点で少なくとも1項詐欺が成立します。つまり支払う意思がないのに、あたかも支払うかのように注文して店側を欺罔し、錯誤に陥った店側が財物である料理等を交付するからです。

ワンポイントアドバイス
三角詐欺と呼ばれる形態の詐欺があります。欺罔された者と被害者が異なる場合です。代表的な例として、銀行の支店長を欺罔して融資を受けた場合、被欺罔者は支店長です。しかし、実際に被害を受けるのはその銀行です。このような場合でも、詐欺罪は成立します。

詐欺罪で逮捕されたら速やかに弁護士に相談

もし、詐欺罪で逮捕されたら、できるだけ早く弁護士に依頼することが大切です。詐欺罪では加害者と被害者の間で示談をして解決を目指すことができます。示談が成立すれば、軽微な詐欺罪の場合不起訴になることもあります。不起訴になれば、前科がつかないことになるので、これからの人生にとっても大きなメリットといえます。こういった示談をスムーズに行うためにも、刑事事件に強い弁護士の存在が力となるでしょう。

刑事事件はスピードが重要!
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
  • 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
  • 23日間以内の迅速な対応が必要
  • 不起訴の可能性を上げることが大事
  • 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
  • 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実
上記に当てはまるなら弁護士に相談