いつの間にか犯罪者に!?多発する痴漢冤罪事件の対処法

この記事で分かること
  1. 痴漢をしていないのに、疑われても絶対に逃げてはいけません。
  2. 痴漢行為は混雑した電車内で行われることが多く、冤罪が多い傾向にあります。
  3. 痴漢で逮捕されたら、タイミングを逃さず、すぐに弁護士を呼ぶのが得策です。

痴漢をしていないのに痴漢を疑われたら、自分はやっていないことをはっきりと主張することが大切です。名刺などの身分が分かるものを残し、逃亡の恐れがないことを示すことも大切です。逮捕されてしまうと、有罪になる可能性が高くなるので、早めに弁護士に依頼することも大切です。

痴漢事件の対処法のための基礎知識

電車等の混雑を利用して主に女性の体を触るなどのわいせつな行為をする男(の行為)を痴漢と定義した場合、抵触する罪状の1つとして考えられるのは強制わいせつ罪(刑法176条)です。同罪は、13歳以上の男女に対し暴行・脅迫を用いて、性的意図の下、わいせつな行為をすること、あるいは13歳未満の男女に対してわいせつな行為をすることです。通常、痴漢で逮捕される場合、世間で言うところの「暴行・脅迫」は用いないことが多いでしょう。しかし、車内の混雑に乗じて相手の意思に反して行なっていることが「被害者の意思に反してわいせつな行為を行うに足りる程度」の暴行・脅迫ととらえます。

公共の場限定で迷惑防止条例違反

強制わいせつ罪での「わいせつ」な行為には該当しない場合、各都道府県の条例での逮捕、起訴という場合もあります。具体的には洋服の上から触った場合などは条例違反で逮捕されることが多いようです。大阪府であれば「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」で、「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること」(同条例6条1号)を禁止しています。違反者は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(同条例16条1項2号)。

痴漢事件に冤罪が多い理由

痴漢冤罪が主張されることはよくあることです。痴漢行為は電車内という密室の中で行われることが多いため目撃者が少なく、また、密着状態のために被害者が犯人の特定を誤ることが起こりうるということが考えられます。

物証が少ない

また、物証が少ないことも冤罪が多い理由の一つでしょう。車内のカメラも極度な密着状態で犯行状況が確実に撮影されることは少なく、しかも洋服の中に手が入ってしまえばカメラに映らないという問題があります。被疑者の手に下着の繊維が付着しているかどうかを調べますが、「付着している=犯行を行った」は強く推認されますが、「付着していない=やってない」と判断できるわけではない点に難しさがあります。

謝って済ませてしまえばという考えも一因

痴漢冤罪が多い理由の1つとして、痴漢と疑われた被疑者自身が、痴漢行為はしていないけれど謝って穏便に済ませてしまおうと考えることが考えられます。下手に否認して勾留されてしまい会社にバレるよりは、やっていないけれど、やったことにして謝り、早期に釈放してもらって自分に対しての被害を最小限に食い止めようとするわけです。

ワンポイントアドバイス
痴漢を疑われたらやっていないことを主張し、絶対に逃げてはいけません。痴漢は現行犯で検挙されることがほとんどなので、男性が痴漢をしていないといくら訴えても不利な状況になりやすい傾向にあります。冤罪を防ぐためにも弁護士をすぐに呼ぶことが得策です。

痴漢なんてしていない!冤罪への対処法とは

痴漢行為などしていないのに、痴漢に間違えられた経験をした人は実際にいます。もし、全く身に覚えがないのに、痴漢に間違われたら、どう対処したらよいのでしょうか。

電車でいきなり「痴漢」と言われたら

電車の中で女性に触ってもいないのに痴漢呼ばわりされた場合、どうすればいいのでしょうか。

逃げるのは得策ではない

痴漢の冤罪事件が世間で話題になっていた時に「駅員室に行ったら逮捕される。そうなる前に全力で逃げろ」と公言する弁護士もいるのは事実です。たしかに「やっていないのだから、そのようなことに付き合う理由はない」というのは一理あります。しかし仮に逃げて捕まった場合、「逃亡のおそれがある」として逮捕される確率は一気に高まります。通常逮捕の要件は逮捕の理由と必要性があることですが、その必要性とは「逃亡または罪証隠滅のおそれがあること」です。そうなると逃げて捕まった場合、逮捕の必要性の要件を満たしてしまうことになります。

冷静に話をする

自分は痴漢をしていないことを明確に、冷静に告げることが大切です。感情的にならず、冷静に大きな声ではっきりと丁寧に主張することが大切です。

その場で名刺と免許を渡す

逮捕を避けるため、警察に自分は決して逃げないことを示すためには、どうすればよいのでしょうか。
具体的には被害者と称する人や駅員に名刺を渡し、すぐにその場を立ち去るのもよい方法でししょう。身元をはっきりさせ、警察の呼び出しにはいつでも応じることを理解してもらうのです。警察に、自分は逃亡のおそれはないと判断させることで逮捕の確率は低くなると思われます。

警察の取り調べの前に弁護士へ

名刺などを置いて帰宅した場合、後で警察から呼び出しがかかることがあります。これは任意の取調べの要請と考えて間違いありません。この時は大事をとって事前に弁護士に相談しておくとよいでしょう。任意の取調べにおける注意事項等を聞いておくべきですし、万が一、逮捕ということになった場合、早急に対応が可能だからです。

ワンポイントアドバイス
被害者の言っていることに矛盾がある場合もあるため、被害者とのやり取りの音声を録音にとることもおすすめです。録音は証拠資料として、後に効果を発揮するかもしれません。

痴漢で冤罪、それでも逮捕されてしまった対処法は

いくら、痴漢はしていないと叫んでも、痴漢に間違えられて逮捕されてしまうかもしれません。その場合はどのように行動すべきでしょうか。

一刻も早く弁護士を呼ぶ

まずは、できるだけ早く、弁護士を呼ぶべきです。
逮捕された時に警察官は、必ず犯罪事実の要旨の告知とともに、弁護人を選任できる旨を伝えることになっています。その時に、すぐに弁護士を頼むべきです。逮捕されると通常、家族は72時間、接見(面会)できませんが、弁護士は接見が可能です。

弁護士とは取り調べの前に接見し、事前に取調べにあたっての注意やアドバイスをしてもらうことで、自分がこれからとるべき行動が分かります。

嘘の自白は絶対にしてはいけない

取調べにあたっては、嘘の自白はすべきではありません。早く痴漢をしたと認めてしまい、釈放してもらおうと、やってもいないのに「やりました」と言ってしまうと、後で無実を主張して争う時に決定的に不利になります。

本来なら供述調書は「伝聞証拠」と呼ばれる種類の証拠として、相手側の同意がない限り証拠から排除されます。しかし、一定の要件を満たせば証拠から排除されません。法廷で自らが「やっていない」と言っても、その時の調書が「その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき」にあたり、伝聞証拠の例外として証拠採用されてしまう可能性があります。

逮捕されても、不起訴を目指す

逮捕されてしまったら、まず、不起訴処分を目指しましょう。起訴されてしまうと、有罪になる確率は非常に高くなり、前科も着いてしまうため、今後社会生活を送る上で不都合になります。

不起訴を目指して被害者と示談

不起訴処分を目指すために、被害者と言われる人ときちんと示談することが大切です。痴漢をしていないのであれば、「冤罪である」ことを最後まで主張し、示談をうまく進めるために、下手に謝まらず、ないようにしましょう。ただし、強気な態度は相手の反感をかうかもしれません。示談の場面でも冷静な話し合いができるように、弁護士を入れることが得策です。

ワンポイントアドバイス
痴漢冤罪事件に限られませんが、最近は検察官の勾留請求が認められない事例が増えてきています。勾留請求の却下率は2002年に0.1%だったのですが、2015年には2.6%と実に26倍になっています(平成28年版犯罪白書、出典は検察統計年報)。嘘の自白をするより、嫌疑に対して正面から争う方法でもチャンスが増えてきたようです。

痴漢冤罪事件で無罪になったケース

公訴提起されたら有罪確率99.9%と言われる日本の裁判制度ですが、それでも無罪判決を受ける人はいます。

痴漢冤罪事件の流れを変えた小田急線事件

痴漢冤罪事件の流れを変えたと言われる判決があります。前述の那須裁判官の補足意見で紹介した裁判で、被告人が防衛医大教授であったことからもニュースでも大きく報じられた最高裁での逆転無罪判決です(最判平成21年4月14日)。

小田急線事件の経緯

事件は2006年4月の朝の電車内で起きました。小田急線成城学園前駅から下北沢駅に至る間の電車内で、17歳の女子高校生が何者かに下着の中に手を入れられる被害を受けたというものです。電車は満員で、女子高校生と男性は互いの左半身が接するような態勢で向かい合って立っていました。

下北沢駅に着く直前に女子高校生は男性のネクタイをつかみ「電車を降りましょう」と声をかけ、「あなた今痴漢したでしょう」と言われたのです。その後、二人は開いたドアから電車の外に押し出され、女子高校生はその場にいた駅長に「この人痴漢です」と訴えました。男性は、また電車に乗ろうとしましたが、結局、駅長の説得に応じて駅長室へと向かい、その後、強制わいせつ容疑で逮捕、起訴されました。

第一審は有罪、最高裁は無罪に

事件は犯行を証明するのが女子高校生の証言しかありませんでした。しかし、一審(平成18年10月31日)は懲役1年10月の実刑判決になりました。

第一審判決に対して被告人は控訴しましたが、東京高裁は被告人の控訴を棄却。しかし、高裁で実刑判決が維持される中、最高裁は逆転で無罪としました。

逆転無罪判決の要旨

判決は女子高校生の供述の信用性判断を慎重に行っています。その上で3つの点で疑問を呈しています。

  1. 被害が執拗かつ強度なのに、車内で積極的な回避行動をとっていない。
  2. それなのに、被告人に対する糾弾行為は積極的であった。
  3. 成城学園前駅でいったん下車しながら、車両を替えずに再び被告人のそばに乗車しているのは不自然。

以上の点を指摘して、「痴漢被害に関する供述の信用性にはなお疑いを入れる余地がある。」としました。

この最高裁判決が痴漢事件についての捜査や、下級審での判断についてどのような影響を及ぼすかは、はっきりとは分かりません。しかし、下級審においては被害者の供述の信用性の判断がそれまで以上に慎重になったことは考えられます。

なお、小田急線事件以外にも、痴漢事件での無罪は記録に残っています。

ワンポイントアドバイス
痴漢を疑われて急に逮捕されたとき、どの弁護士を呼んだらいいのか分からないこともあるでしょう。そのときは、当番弁護士制度を利用することができます。当番弁護士制度とは、逮捕された後から起訴されるまでの間に弁護士を初回は無料で呼ぶことができる制度で、被疑者だけでなく、家族でも呼ぶことができます。逮捕後、警察での手続きが進んでしまう前に、少しでも早く弁護士と面会する必要があります。当番弁護士は呼べばすぐに来てくれます。

痴漢で冤罪にならないための対処法に、弁護士を!

もし、痴漢をしていないのに痴漢の容疑をかけられたら、自分で何とかしようと激怒したり、痴漢をしてもいないのに「やった」と認めたりしてはいけません。もし、警察に逮捕されたら、逮捕された瞬間から弁護士に依頼できます。タイミングを逃さず、速やかに弁護士を呼びましょう。弁護士に会うまでやたらな発言はしない方が得策です。弁護士が入ることで、冤罪を免れる可能性が高まります。

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