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取引先の組織再編 合併・吸収で債権はどうなる? 債権者保護手続きとは?

この記事で分かること

  • 組織再編を行う際、自社の債権者を保護するための債権者保護手続きが必要な場合がある。
  • 組織再編であっても、債権者保護手続きが不要なケースがあります。
  • 組織再編の登記前までに、債権者保護手続きを終わらせておく方がよいでしょう。

債権者保護手続きとは、組織再編を行う際に組織再編を行うことを債権者に通知し、異議申し立ての機会を与える手続きです。会社分割において、債務の移転がない、また、これまでの債務者に請求できるなど資産や負債の変動がない場合は、債権者保護手続きは必要ありません。 債務は移転するけど、元の分割会社へ債務の弁済を請求できる場合も、債権者保護手続きをする必要はありません。

債権者保護手続き~組織再編と債権者異議の必要性

世界の経済情勢が一定のスピード感を持って変化していく中、企業が生き残りをかけて組織再編してより効率的な経営を図るのは当然のことです。しかし、企業の債権者にすれば組織再編によって「金を貸した相手」に新たなリスクが発生するのでは、予期せぬ損失を被りかねません。会社法(商法)はその点について詳細な手当てをしています。

組織再編と債権者の関係

企業は組織再編の必要があり、債権者は債権の回収のリスクの増加を望みません。その場合、企業と債権者の関係に緊張感が生じる場合が出てきます。

債権者はなぜ貸すのか

債権者は債権を回収できると考えるから、貸付を行います。最初から回収の見込みのない貸付を行えば背任罪(刑法247条)、もしくは特別背任罪(会社法、以下条文番号のみの時は同法、960条)に問われる可能性があります。債権者は「回収できる見込みがあり、金利分の利益を得る見込みがあるから」貸付するのです。

組織再編によるリスク

ある債権者は財務状態のいいX社に融資していたものの、同社が財務状態が悪いY社を吸収合併することになれば、X社への債権の回収可能性が低下します。X社は消滅するY社の権利義務を包括的に承継するため、その債務も承継するからです。そうなると債権者としては「勝手に組織再編するな」と言いたくなりますし、会社法はそのように言う機会を保障しています。

債権者異議の方法

債権者異議の方法としては、合併であれば、合併当事者の債権者は異議の申し立てをすることができます(789条1項1号、799条1項1号、810条1項1号)。この場合、789条1項1号は吸収合併の際の消滅会社の債権者、799条1項1号は存続会社の債権者、810条1項1号は新設合併により消滅する会社の債権者が、それぞれ債務者である会社に対して異議の申し立てができます。異議を述べた債権者に対しては、会社は弁済もしくは相当な担保の提供、または弁済目的で相当の財産を信託しなければなりません(789条5項、799条5項、810条5項)。

組織再編の無効の訴え

組織再編を承認しなかった債権者は、組織再編無効の訴えを提起できます(828条2項7号〜12号)。債権者異議手続きが適正に実行された場合、そこで異議申立てを行わなかった債権者は承認が擬制される(789条4項、799条4項、810条4項)ため、無効の訴えは提起できません。適正に実行されなければ承認は擬制されませんから、債権者は無効の訴えが提起できます。

組織再編の具体例

組織再編には様々な種類があります。ここでまとめて見てみましょう。

会社分割

会社分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務を全部若しくは一部、他の会社に承継することです。既存の会社に承継させるのが吸収分割(2条29号)で、新たに設立された会社に承継させるのが新設分割(同条30号)です。事業の買収やグループ企業の再編等に活用されています。
具体例で説明しましょう。総合食品会社のX社が外食(レストラン)部門の権利義務を全部、ファミリーレストランの大手Y社に承継させたら吸収分割です。X社が新たに設立したX2社に承継させたら、新設分割です。承継する会社は当然、対価を支払います。通常は金銭などが多いでしょう。しかし、新設分割の場合の対価は設立会社の発行する株式や社債などに限られます。

合併

合併とは、2以上の会社が合一して1つの会社になることです。当事会社のうち1つが合併後も存続して、消滅する会社の権利義務を承継する場合は吸収合併(2条27号)と呼びます。合併ですべての当事者となる会社が消滅して、新たに設立された会社が権利義務を承継する場合は新設合併(同条28号)です。吸収合併については合併対価については制限がなく、金銭も認められます(749条1項3号)。新設合併については、設立会社の発行する株式か、社債等に限られます。

株式交換と株式移転

株式交換(2条31号)は、子会社となる株式会社が、その発行済株式の全部を、親会社となる会社に取得させることを言います。他社の完全買収の手段として用いられることが多い手法です。株式移転(同条32号)は、1または2以上の株式会社が、その発行済株式全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。持株会社の形成に用いられることが多い手法でしょう。

持株会社とは直接事業を行わずに、他の会社の株式を保有・支配することで収益を上げる会社です。長らく独占禁止法で禁じられていましたが1997年に認められるようになりました。○○ホールディングスという名前の会社をよく目にしますが、その多くが持株会社と言ってよいでしょう。

事業譲渡とは

事業の譲渡も買収やグループ企業の再編等に用いられます。

事業譲渡とは、取引行為として事業を譲渡することです。事業に関する権利や義務の譲渡は、通常の取引で行います。そのため、譲渡会社の債務を譲受会社が引き受ける時は、民法の原則にしたがって債権者の承諾が必要です。取引行為ではない組織再編とはその性質が違います。

「事業」の意味

事業譲渡の場合、問題になるのは事業とは何かということです。たとえば、総合食品会社が外食(レストラン)部門の事業を譲渡する場合、レストランの敷地と建物、建物内の什器等を譲渡した場合、それは単純に不動産と動産の譲渡にすぎないと考えられるでしょう。財物だけではなく、事業そのものの譲渡が事業譲渡です。色々な考え方はありますが、

一般的には
①一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は一部の譲渡であって、②譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動を譲受人に受け継がせること、
と言っていいでしょう(最判昭和40年9月22日)。

ワンポイントアドバイス
これに、「それによって譲渡会社が当然に競業避止義務を負担することになるもの」という要件を加える場合もあります。

合併・分割における債権者保護手続き

次に企業の合併、分割における債権者保護について説明します。

まず、合併の場合の債権者保護について見てみましょう。
合併の当事会社は合併に関する一定の事項と、債権者に対して異議の申し立てができる旨を伝えないといけません。つまり、一定の期間内(1か月以上)に異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告しなければなりません(789条2項、799条2項、810条2項)。官報のほか、定款所定の日刊新聞紙または電子公告により行った場合は各別の催告は省略できます(789条3項、799条3項、810条3項)。

異議債権者に対する措置

合併に異議を述べた債権者に対しては、当事会社は弁済若しくは相当の担保の提供、または弁済目的で相当の財産を信託しなければなりません。ただし、合併が債権者を害するおそれがない時はこの限りではありません(789条5項但し書き、799条5項但し書き、810条5項但し書き)。合併に異議を述べなかった債権者は合併を承認したとみなされます(789条4項、799条4項、810条4項)。

会社分割における債権者保護

会社分割の場合の債権者保護について見てみます。基本的には合併の時の債権者保護の手続きが分割の場合も当てはまります(789条、799条、810条)。

知れている債権者への各別の催告

知れている債権者への各別の催告と、それをしなくていい場合の定めは合併の場合と同様です(789条2項、799条2項、810条2項)。ただし、分割会社の不法行為債権者に対しては各別の催告を省略できません(789条3項かっこ書き、810条3項かっこ書き)。不法行為債権者については公告をチェックすることを要求すること自体が無理です。また、契約債権者と違って望んで債権者になったわけではありませんから、契約債権者であれば会社が分割されるリスクを抱えることを回避する策を取ることは可能でも、不法行為債権者はそのようなこともできないからです。

異議を申し立てられる債権者

 会社分割に対して異議を述べることができる債権者は3通りです。

  1. 分割会社の債権者のうち、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる者(789条1項2号、810条1項2号)
  2. 分割会社が分割対価である承継会社・設立会社の株式を株主に分配する場合の分割会社の債権者(789条1項2号第2かっこ書き、810条1項2号第2かっこ書き)
  3. 承継会社の債権者(799条1項2号)

 ①については、分割会社に対する債権が、分割後には承継会社が免責的債務引き受けをするのと同じことになります。そのため、債権回収でリスクが発生するため、異議を述べられるのは当然でしょう。③については合併の存続会社と同じで、経営状態が悪い事業を承継する会社に対する債権は回収についてリスクが発生するという理由です。

各別の催告を受けない債権者の保護

 分割会社が債権者に対して各別の催告をしなかった場合は、当該債権者に対して保護する規定があります。催告を受けなかった債権者は、債務を負担しないはずの会社に対しても、一定の限度内で債務の履行を請求できます(759条2項3項、764条2項3項)。その債権者が知れている債権者であっても、なくても同様です。ただし、分割会社が官報公告に加え、日刊新聞紙への掲載または電子公告をした場合は、不法行為債権者以外の債権者に対する催告を省略できますから、その場合は適用がありません。

ワンポイントアドバイス
分割会社が、分割会社に残存する債権者を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は、設立会社または承継会社に対して、承継した財産の限度で当該債務の履行を請求できます(759条4項、764条4項)。これは平成26年改正で新設された規定です。

株式移転・交換、事業譲渡における債権者保護手続き

合併、分割以外の組織再編、そして事業譲渡における債権者保護も見ていきましょう。

株式交換・移転の債権者異議

株式交換・移転の場合、合併や分割に比べて債権者の利益を害する可能性は低くなります。

例えば完全親会社が、発行する株式を対価として株式交換をする場合、完全子会社は従来の株主が完全親会社に変更になるだけで、財産状態には変化がありません。完全親会社も新たに発行する株式を対価にして完全子会社の株式を取得するわけですから、保有する資産(子会社の株式)が増え、かつ、新たな債務は発生しません。つまり、債権者にすれば債権回収のリスクに変化はありません。

株式交換・移転における債権者異議

以上のように株式交換・移転は債権者が負うことになるリスクは限定的なため、債権者異議の申し立てができる場合は限られています。

  1. 株式交換の対価として完全親会社の株式以外のものが交付される場合の完全親会社の債権者(799条1項3号)・・対価が多額すぎると完全親会社の財務状態が悪化するため。
  2. 株式交換契約の定めとして、完全子会社が発行している新株予約権付社債を完全親会社が承継する場合の完全親会社の債権者(768条1項4号ハ)・・完全親会社の金銭債務が増加するため。
  3. 上記②の場合の完全子会社に対する社債権者(789条1項3号)・・新株予約権付社債が、完全親会社が免責的に引き受けることになるため。
  4. 株式移転計画で、完全子会社発行の新株予約権付社債を完全親会社が承継するときの社債権者(810条1項3号)・・上記と同じ理由。

事業譲渡における債権者保護

組織再編ではありませんが、事業譲渡における債権者保護も見てみましょう。

事業譲渡に際して、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、譲受会社は、事業譲渡契約で債務の引き受けをしていなくても、譲渡会社の事業で生じた債務を弁済しなければなりません(22条1項)。もちろん、会社は商号の譲渡はできませんが、商号を引き続き使用するとは、譲受会社が定款変更で自己の商号を譲渡会社の称号と同じものに変更することです。

もっとも事業を譲り受けた後に、遅滞なく譲受会社が本店所在地で譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用がありません(同条2項)。なお、会社法22条1項と同様の規定が商人の場合、商法に規定されています(商法17条1項)。

詐害的事業譲渡の場合の債権者保護

詐害的な事業譲渡については、詐害的会社分割と同様の債権者保護制度があります。すなわち詐害的な事業譲渡があった場合には、譲受会社に承継されない債務の債権者は、譲受会社に対して、承継した財産を限度として債務の履行を請求できます(23条の2第1項)。ただし、譲受会社が詐害性について善意の場合には適用されません(同項但し書き)。これも平成26年の会社法改正で新設された規定です。

ワンポイントアドバイス
譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をした場合、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に弁済の請求ができます(23条1項)。商人に関して同様の規定があります(商法18条1項)。

債務者保護手続きについては弁護士に相談!

会社が経営を続けていく上で、分割や合併、吸収などの組織再編は避けられない場合があります。そういった場合に必要になるのが、債権者保護手続きです。これから組織再編が必要な方や債権者保護手続きについて詳しく知りたい方は、弁護士に相談するのが得策です。自社に合わせて、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
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上記に当てはまるなら弁護士に相談