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仮差押えと差押え(強制執行)の違いは?

この記事で分かること

  • 仮差押と強制執行は目的がそもそも違うし強制執行=差し押さえでもない
  • 仮差押をすることで資産隠しや処分を防げる
  • 仮差押をしても自己破産は防げない

仮差押を強制執行の一部のように勘違いしている人が多いですが目的もカテゴリも違う手続きで、どちらも個別の申し立てが必要です。仮差押はあくまで強制執行を実現するために財産を保全する制度ですが破産を防ぐことはできません。

仮差押は保全、強制執行は債権回収が目的

売掛金や借金を払ってもらえないとなれば、強硬手段に出るしかありません。強制執行は債権回収の最終手段で財産を裁判所が預かります。強制執行をすると動産は競売にかけられ不動産は登記が変わります。しかし、不動産の中には「仮差押」という登記情報が書かれたものもあります。

こちらでは仮差押と強制執行の違いについて簡単に解説します。

また、この違いを知るためには差押えという言葉の意味も知っておくと良いでしょう。

差押えと仮差押の違いは?

差押えとは裁判所が財産を押収することを言います。動産の場合は物理的に執行官が預かり、不動産や債権の場合は物理的に押収できなくても処分を禁止します。倒産したお店に貼ってある紙をよく読むと、建物を差し押さえられていることがわかります。

差押えは人の権利を大きく制限するものであるため本来は債務名義が必要です。しかし、裁判が終わる前に差し押さえるべき事情があるときは仮差押を行います。

仮差押は差し押さえのように完全に処分を禁止するわけではありませんが例えば不動産を処分してから債権者が勝訴した場合、当該不動産を購入した第三者に対抗できます。

逆に仮差押をしたけれど相手に履行すべき債務がない場合は債権者が仮差押についての損害賠償を支払うことになります。

仮差押はあくまで差し押さえが実現できるように財産を保全することが目的です。差し押さえが民事執行法によるものであるのに対し、仮差押は民事保全法で定められた手続きで裁判所の受付窓口も異なります。

債務名義とは

債務名義とは民事執行の根拠となる公文書のことで債権の範囲が示されています。例えばこのようなものが債務名義となります。

  • 判決(確定していないなら仮執行宣言が必要)
  • 仮執行宣言付き支払督促
  • 公正証書
  • 和解調書、調停調書

差押え=強制執行ではない?

仮差押は強制執行の実行力を高めるものですが、差押え=強制執行ではありません。あくまで差押えは財産を押収することであり、そうでなければ「仮差押」という名前がついていることに必然性がなくなります。

強制執行とは債権者が持つ権利を強制的に実現させるプロセス全てを指します。よって差し押さえ→換金→配当までがセットです。

よって仮差押とは仮の差し押さえに過ぎず仮の強制執行に当たるものは仮執行と呼びます。

仮執行でも強制執行と同じだけのことができる

仮執行とは確定判決が出ていない場合に行う民事執行ですが、できることは強制執行と変わりません。この制度は上訴によって審理が長引いた時に債権者を助ける手段であり嫌がらせのような裁判を抑止する目的があります。

もし上訴によって判決や執行文が変わる場合はその範囲に対して仮執行の効力が失われます。ゆえに仮執行ができるのは金銭など現状復帰が容易な財産が原則です。

ワンポイントアドバイス
強制執行は差し押さえ、換金(競売や取り立て)、配当という3つのステップがあります。仮差押はそのうち差し押さえのみを仮に行う保全手続きですから強制執行と比べるとかえってわかりづらくなるでしょう。大事なのは仮差押が債務名義なしで、それどころか裁判の前でも行えるということです。

仮差押で強制執行の実現性を高める

仮差押の特徴は債務名義がなくても行える点です。裁判を起こさずに財産を凍結できることは強制執行の実現性を高めます。例えば債務者が起こすであろうこのような行動を制限できます。

不動産や動産を売り払い、財産を回収できないようにする

差し押さえられるとわかった債務者がその前に不動産屋動産を売り払ってお金に換えてしまうことがあります。換金するだけならそのお金を差し押さえれば良いのですがそれを盛大に処分してしまえば回収のしようがありません。

不動産や動産を贈与同然の値段で知り合いに渡して差し押さえを避けようとする場合もありますが、態様がひどければ詐害行為取り消し請求権を行使することができます。

また、売り払うでなくてもただ債権者へ嫌がらせするためだけに不動産や動産を物理的に壊すこともあるようです。

いずれにせよ財産が債務者の所有でなくなれば強制執行が難しくなります。このような場合に仮差押をしておけば動産は取り上げられるし不動産についても対抗可能です。

売掛金を使って別の債務を補填しようとする

債務者が他の取引先(第三債務者と言います)に対して売掛金を持っている場合、実際にっ払ってもらったお金を使い込んだり他の債務に充ててしまうことを防がなければいけません。そこで売掛金を仮差押すれば第三債務者による売掛金の支払いを阻止することができます。

強制執行ができるのは実体のあるものだけではありません、売掛金や給与、銀行預金といった債権もまた差し押さえの対象となるのです。

もし債権を差し押さえることができれば強制執行として自分で第三債務者からの取り立てが可能となります。

財産を隠してしまう

動産に関しては差し押さえの対象指定が要らないものの持ち運べるため隠される危険性があります。よって仮差押をすることで財産の隠匿を防ぎます。確かに動産の差し押さえをするときは執行官が立ち入りますが税務局の査察のごとく念入りに調査することは内容です。だからこそ債務者に先手を打つ形での仮差押が大切です。

ワンポイントアドバイス
強制執行は権利を強制的に実行する手続きですが財産のない債務者にはなすすべがありません。大切な財産を処分されぬよう仮差押で凍結しましょう。仮差押をしておけば法的紛争が長引いた時でも安心です。

仮差押が結果を出さない場合とその理由について

仮差押は債務者の権利を抑える強い効力を持ちますが、仮差押を申し立てたからといって必ずしもうまくいくとは限らないし、強制執行がそもそも有効でない場合もあります。仮差押をする上での注意点として覚えておきましょう。

仮差押の理由が不十分だ

仮差押をするためには仮差押をするに相当する理由が必要です。まずは債権が存在するという根拠、そして仮差押をしなければならないという根拠です。

債権の存在については契約書や約束手形、これまでの支払い記録が動かぬ証拠となります。仮差押の必要性についてはこれまで様々な手を尽くしても債務を履行してもらえなかった、財産を処分されかねないなど債権者自らが説明(法律用語で言えば疎明)しなくてはいけません。

全く根拠のない仮差押がまかり通れば人々の生活が脅かされるという点を理解しましょう。自分では疎明が難しいと思われるなら迷わず弁護士へ相談してください。仮差押はスピードが肝心です。

債務者がめぼしい財産を持っていない

債務者が財産を持っていなければ仮差押をしても意味がありません。仮に裁判で勝ったとしても無資力の人間からは何も奪うことができません。それに差し押さえ禁止財産もあります。

そして差し押さえられる財産がある程度あった場合でも資産価値が低ければ債権回収の実現が難しいでしょう。

債権者が多い

債権者が複数いる場合は強制執行した財産を山分けします。仮差押を申し立て裁判で勝ち、強制執行の手続きをすべて自分で行っても債権者平等の原則は覆せません。したがって債権者が多い場合は一人一人の得られる配当が少なくなります。

自己破産されることも

仮差押は自己破産を妨げません。自己破産された場合は財産を差し押さえて弁済となるのですが自己破産が終わった時点で相手の債務も無くなります。つまり債権回収がそこでストップを余儀なくされるのです。

ワンポイントアドバイス
仮差押は財産を保全する重要な手続きですが保全すべき財産がない、保全すべき正当な理由を述べられないとなれば仮差押の意義が無くなります。実行力のある債権回収は綿密な調査と適切な手段によって行われます。

仮差押と強制執行の違いがよくわからない状態でも弁護士がしっかりサポートしてくれます

こちらでは仮差押と強制執行の違いについて紹介しましたが債権回収をするにあたっては他にも難しい単語や手続きの流れを覚えなくてはいけません。さらに債務者の出方を伺って駆け引きする必要もあるでしょう。

「ここまで読んだけど仮差押と強制執行の違いがよくわからない」なら迷わず弁護士に相談してください。難しい手続きはまとめてお任せできますよ。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談