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親権と戸籍の関係|離婚後の子供の戸籍や扶養はどうなる?

この記事で分かること

  • 親権と戸籍は、法律上別のものである。
  • 両親が離婚した場合、子供の籍はそのまま残る。
  • 子供の戸籍と、親権者である親の戸籍が別々になっても、法律上は問題ない。
  • 子供の籍を親権者の戸籍に移すには、家庭裁判所での手続が必要となる。
  • 子供の親権と戸籍については、まず弁護士に相談することが大切である。

夫婦が離婚する場合、子供の親権と戸籍をどうするかは、子供の将来に関わる重大な問題です。特に、子供と親権者とが別々の戸籍になった場合、生活上さまざまな問題が生じます。子供の戸籍を移さなくてはならない場合もあります。親権と戸籍については、離婚と戸籍に詳しい弁護士に相談しましょう。

親権と戸籍の関係

「戸籍」と「親権」という2つのことば。イメージ的には同じものだという印象を持つ方が多いのではないでしょうか。では、法律上の意味としてはどうなのでしょうか。

戸籍と親権は本来、別のもの

戸籍と親権は、法律上の意味としてはまったく別のものです。以下、それぞれの意味を解説します。

戸籍とは

戸籍とは、そこに籍を置く人それぞれについて、「いついつ誰々の子として生まれた」「いついつ誰々と結婚した」というような、親族同士のつながり(身分関係)を時の流れに沿って記録したものをいいます。原則として、一組の夫婦とその間の未婚の子供をひとまとめにして、一つの戸籍ができあがります。

親権とは

親権とは、親が、未成年の子供に対し、一人前の大人に育て上げていくために必要なことを行うに当たって、みだりに他人の干渉を受けない権利をいいます。具体的には、生活面の監督をする、心身の安全と健康を守る、教育を受けさせるといった場面で認められる権利です。

このように、戸籍と親権は、目的も中身も全く異なる、別のものなのです。

ワンポイントアドバイス
戸籍においては、夫婦のいずれか一方の氏名を戸籍の初め(筆頭)に記載します。この人を「筆頭者」といって、いわば戸籍の代表者です。日本では、夫が筆頭者となるケースが多いです。戸籍に籍を置く人は全員、筆頭者と同じ氏を名乗ります。

離婚後、子供の戸籍や扶養義務はどうなる

夫婦が離婚した場合、筆頭者でないほうの夫か妻は、その戸籍から出て行きます。戸籍が一組の夫婦ごとに作られるものである以上、離婚すれば、片方が戸籍から出て行くのは当然です。

では、子供の籍はどうなるのでしょうか。

父親と母親が離婚しても子供の戸籍は元のまま

両親が離婚しても、子供の籍はそのままで、移動することはありません。離婚したのは両親であって、両親が夫婦でなくなることの結果として、そのいずれかが戸籍から出て行きます。そのことと、子供の籍の所在とはなんら関係がないからです。

子供が、親権のない親の戸籍にいることに問題はある?

未成年の子供が、親権のない親の戸籍にいることは、法律上はまったく問題ありません。

たとえば、筆頭者が夫(子供にとっては父)である場合、夫婦が離婚すれば、筆頭者でない妻(子供にとっては母)が戸籍から出て行きます。妻は、結婚前の戸籍(つまり、自分の両親の戸籍)に戻るか、自分だけの戸籍(自分を筆頭者とする戸籍)を作るかのいずれかを選びます。

いっぽう、離婚する際には必ず、未成年の子供の親権者を父母のいずれかに決めなければなりません。このケースにおいて親権者を母と決めた場合、子供は父の戸籍に残るので、結果として子供と親権者母の戸籍は別々になります。

この形は一見おかしな印象ですが、法律上はまったく問題ありません。戸籍は身分関係の記録ですから、母が親権者になったことが子供の戸籍に記載されます。戸籍の役目はそこまでです。

子供が親権者である母の戸籍に入ることまでは、戸籍制度は求めていません。従って、子供と親権者の戸籍が別々になることは、法律上まったく問題ありません。

離婚した夫婦と子供との間の扶養義務は変わらない

両親が離婚しても、父と子供、母と子供は、互いに生活を助け合う義務(扶養義務)を負うことに変わりはありません。親子は互いに扶養義務を負い、両親が離婚したとしても、父子・母子の親子関係はそのままだからです。

父母それぞれとの相続関係も続く

両親が離婚しても、子供は父および母の法定相続人であることに変わりはありません。子供は、親が亡くなった場合の第一順位の法定相続人であり、両親が離婚したとしても、父子・母子の親子関係はそのままだからです。

ワンポイントアドバイス
親が子供の生活の面倒を見ることについては、子供が未成年のうちは、親による親権の行使という形で行われます。親の子供への扶養義務は、親権の陰に隠れてしまいます。子供が成人した時点で、親の親権は消滅し、扶養義務が前面に出てきます。

子供の戸籍をどうしても親権者の戸籍に移したい場合

子供と親権者の戸籍が別々であることは、法律上はまったく問題ありません。しかし実際は、子供の籍を親権者の戸籍に移して、一緒の戸籍にしたほうが生活しやすい場合が生じます。これを可能にするのが、「子の氏の変更」という手続です。

家庭裁判所での「子の氏の変更」許可手続

子供の籍を、親権者でない親の戸籍から親権者である親の戸籍に移す手続を、子の氏の変更といいます。これにより、子供と親権者の戸籍が別々という状態が解消されます。

子の氏の変更を行うには、家庭裁判所の許可をもらうことが必要です。氏が変わることは子供の生活への影響が大きいことから、本当に子供の幸せにつながる変更かどうかをチェックする必要があります。また、子供の氏を変えることについて両親の意見が一致しない場合には、その調整を図る必要もあります。そこで、家庭裁判所が関わって、子の氏の変更が妥当かどうかを判断することとしたわけです。

家庭裁判所での審判手続

家庭裁判所の許可をもらうには、「子の氏の変更許可」の審判を申立てます。申立先は、子供の住所地を担当区域とする家庭裁判所です。申立書は、家庭裁判所の窓口か裁判所のウェブサイトで入手できます(申立書)。

申立書のほかに、戸籍謄本などの添付書類、申立て費用(子供一人につき800円分の収入印紙、通知用の郵便切手)が必要です。裁判所によって、添付書類や郵便切手の内訳が違うので、事前に確認しましょう。

子供が15歳未満であれば、親権者が、子供の法定代理人として、親権者の名で申立てをします。

子供が15歳以上であれば、子供自身が、自分の名で申立てをしなければなりません(親権者が家庭裁判所に同行することはかまいません)。15歳になれば、自分の戸籍を移すかどうかの判断ができるだろうと法律は考えたわけです。

変更が許可になると、許可になった旨の通知(審判書謄本)が家庭裁判所より郵送されます。

「子の氏の変更」の「氏」とは

人の名字のことを、法律では氏といいます。氏は、戸籍ごとに違う氏となります。たとえば、山田太郎さん一家の戸籍と山田次郎さん一家の戸籍があったとします。両家の戸籍は、別々です。従って両家は、漢字としては同じ「山田」ですが、戸籍が別なので、氏としては違う「山田」ということになります。

子供の籍を親権者の戸籍に移すと、戸籍が変わることに加えて、氏も変わることから、両方を含める意味で、「子の戸籍の変更」とはいわず、「子の氏の変更」というわけです。

子供の入籍手続

家庭裁判所から、子の氏の変更が許可になった旨の審判書謄本をもらっただけでは、子供の戸籍は移りません。審判書謄本を持って、市区町村役場に行き、子供の入籍届をすることが必要です。入籍届が受理されて初めて、子供の籍が親権者の戸籍に移ります。

ワンポイントアドバイス
たとえば親権者母が婚姻中の氏「田中」のままで自分だけの戸籍を作ったとします(婚氏続称)。子供の籍が母の戸籍に移っても、子供の氏は「田中」のままです。「子の氏の変更」というには、一見おかしい感じがします。しかし氏は、戸籍ごとに違う氏となります。父の戸籍から母の戸籍へと移れば、漢字では同じ「田中」ですが、戸籍が違うので、氏としては違う「田中」になります。従って、やはり「子の氏の変更」であるということになります。

子供を親権者の戸籍に移したいのはなぜ?

子供の戸籍は、本来であれば、子供自身が判断して、移すかどうかを決めるべきものです。

しかし、15歳未満の子供については、親権者が法定代理人として、子の氏の変更手続を行います。そこには、子供自身の気持ちは全く反映されません。15歳以上の子供については、自分の名で子の氏の変更手続をするにしても、そのほとんどは親権者の意向によるものです。

従って、親権者の判断で子の氏の変更手続を行うことが適切といえるだけの理由が必要となります。

子の氏の変更が必要な4つの理由

親権者が子の氏の変更を必要と考える適切な理由として、次の4つを挙げることができます。

異なる氏での同居には不都合が伴う

多くの場合、子供は親権者と生活を共にします。両者の氏が異なると、表札をどうするか、郵便物の宛名をどうするか、近所から家庭事情を勘ぐられはしないか、などの不都合が生じます。

子供の学校関係においてリスクが生じる

子供が小中学校などに通っている場合、「なぜA君とお母さんは名字が違うんだろう?」と、友だちやその父兄からせん索されたり、ひどいときには友だちからからかわれるといった事態も想定されます。また、学校関係の書類に、子供と親権者とが異なる氏を書かなければならないことも多く、それを見た子供の気持ちが知らず知らずのうちに傷付いていくというリスクもあります。

戸籍謄本を複数用意しなければならない

子供の入園・入学や就職の際には、子供と親権者それぞれの戸籍謄本(または戸籍記載事項証明書)が必要となる場合があります。複数用意しなければならないので、手間暇と費用がかかります。特に本籍地が遠方の場合、郵便で取り寄せなければならないため、余計に手間暇がかかります。

一緒に生活する者は同じ氏というわが国の伝統的な社会意識

現在の法制度において、氏は、あくまで個人の呼び名です。しかし現実には、氏は家族の一体感を表すシンボルとしての意味があり、一緒に生活する者は同じ氏を名乗るのが当然という社会意識が根強く残っています。親権者も、こうした伝統的な社会意識を無視することはできません。

ワンポイントアドバイス
子の氏の変更によって氏が変わった子供が成人となり、やっぱり前の氏のほうがよいと考える場合には、市区町村役場への届出だけによって、子の氏の変更がなされる前の戸籍に戻ることができます。未成年のうちになされた子の氏の変更が、本人の意思に基づくものでなかったこと(15歳未満だった場合)、または、成人レベルの判断力に基づくものではなかったこと(15歳以上だった場合)を修正するためです。

離婚後の親権や子供の戸籍については弁護士に相談を

離婚後の親権や子供の戸籍をどうするかという問題は、子供の心にも影響し、その成長に関わる重大な事柄です。

それぞれの置かれた状況に応じて、子供の幸せにつながるベストな選択をしなければなりません。こうした判断には、民法や戸籍法といった法律知識のみならず、戸籍が子供に与える現実的な影響を見通す力が必要です。

離婚後における子供の戸籍の扱いを軽率に行うことは、重大なリスクが伴います。そのためまずは離婚や戸籍に詳しい弁護士に相談しましょう。

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