閉じる

6,057view

退去時の原状回復はどこまでが義務? ガイドラインを紹介

この記事で分かること

  • 退去時の原状回復にまつわるトラブルを防ぐ為にまとめられたのが「原状回復ガイドライン」
  • 原状回復ガイドラインの定める原状回復義務は借りた当時の状態に戻すことではありません
  • トラブルを防ぐためには入退去時にチェックリストを作り、部屋の状況を貸主立会いの下確認することが重要

原状回復義務とは借りた当時の状態に戻すことではありません。原状回復ガイドラインには法的拘束力はないものの裁判になったとき参考にされます。またトラブルを防ぐためには入退去時に部屋の状況を十分に確認することが重要です。

原状回復のガイドラインを知っておくと退去時に役に立つ

賃貸借物件において、退去時に原状回復しなければなりません。しかし修繕の範囲やそれに係る負担費用の割合等でトラブルになることが多く、トラブルを防ぐためにガイドラインが存在します。

原状回復ガイドラインとは

『原状回復を巡るトラブルとガイドライン』は原状回復にまつわるトラブルの防止と迅速な解決にあたって原状回復義務とは何かを明確化し、それに基づいて借家人・貸家人の負担割合の在り方を具体的にする為に1998年に国土交通省から発表された指針です。

建物の損耗の区分

ガイドラインでは建物の損耗を建物価値の減少と位置付け、負担割合の在り方を検討する上で理解しやすいように損耗を「経年劣化 (建物・設備の自然的な劣化・損耗等)」「通常損耗(賃借人の通常の使用により生じる損耗等)」「その他(賃借人の故意・過失善管注意義務違反、その他通常の範囲を超える様な使用による損耗等)の3つに区分し、3のケースを借家人負担とします。

事例の区分

実際の損耗が通常損耗によるものなのか賃借人の故意・過失によるものなのかが明白に判断できないことには、原状回復に係るトラブルの防止・解決には役に立たちません。また、そもそも昨今の生活スタイルの多様化等により一口に通常損耗と言ってもその範囲は極広範囲に渡る為、判断基準そのものを定義することは困難と言えます。

そこでガイドラインは

  • 「A:賃借人が通常の住まいや使い方をしていても発生すると考えられるもの」
  • 「B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)」
  • 「A+B:基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの」

の3つにブレークダウンして区別します。

その上で建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの建物価値を増大させる要素を含むものをA+Gとします。

原状回復ガイドラインの位置づけ

ガイドラインは2004年2月に改訂、2011年8月に再改訂されました。しかしガイドラインに対して誤った認識を持つ人が多いと言えます。そこで、その正しい位置づけを以下に示します。

借りた当時の状態に戻す様定められたものではない

多くの人が誤認している点ですが、賃借物件の原状回復義務とは借りた当時の状態に戻す義務ではありません。当然のことながら建物の価値は居住の有無に関わらず時間の経過により下がっていくものですし、契約で定められた使用方法に従い通常の生活を送っていた場合でも多少の損耗は生じ得ます。あらゆる損耗や毀損の回復に係る費用を借家人が負担すべきではないと考えるのが合理的と言えます。

法的拘束力はないが多くの裁判で参考とされる

また原状回復ガイドラインは近頃の裁判例や国民センター等における実際の相談内容及び実務を考慮した上で退去時の原状回復を巡るトラブル防止の為に、あくまでも“現時点において妥当とされる一般的な基準をまとめた指針”なので法的拘束力はありません。しかし多くの判例でこれに沿った判決が下されています。

ワンポイントアドバイス
原状回復ガイドラインの定める原状回復義務は借りた当時の状態に戻すことではありません。またあくまでも妥当な基準をまとめたものであり法的拘束力はないものの裁判になったとき参考にされます。

退去時の原状回復の義務はどこまで?

これらのことを念頭に置いてここでは退去時の借家人の原状回復の義務はどこまでなのか、負担割合の考え方を解説していきます。

どの様な事例が借家人の原状回復義務に含まれる?

ガイドラインでは借家人の原状回復義務に一定の定義を定めており、借家人の負担になるケースとならないケースがあるのです。でどのようなケースで借家人の負担になるのでしょうか。

A+B“善管注意”を怠ったことによるもの

賃借人にはその職業・地位・能力などによる社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用する義務があり、これを「善管注意義務」と呼びます。例えば窓の閉め忘れなどの不注意によるフローリングや畳の変色、落書きやペットによる傷、汚損等が該当します。また飲み物をこぼしたことによるシミやカビもこれに当たります。「飲み物をこぼす」ことは通常使用ではありますが、それを放置しシミやカビを発生させたことが善管注意義務違反に該当すると捉えられます。

A+B不適切な管理や通常の使用を超えるもの

タバコのヤニや匂い、重量物設置の釘穴、ネジ後や、ペンキの塗り替えや畳の張替え、カーペットの敷き替え、襖の交換等もガイドラインが定義する「その他通常の使用超えるような使用による損耗・毀損を復旧するもの」に該当し、借家人の費用負担になります。

負担費用を減ずる因子もある

ただ、借家人に等原状回復にかかる費用を負担する責任があるケースでも負担額は一定の基準に沿って減らされることになります。

経過年数による減額

その基準のひとつが「経過年数」です。例えば明らかに通常の使用などによる結果とは言えない損耗等であっても畳の“焼け”や床の色あせ等の経年変化や畳の“擦れ”等の通常損耗は必ず前提になっています。しかしその分の費用は家賃でカバーできているはずなので退去時に改めて支払うとなると、二重負担になってしまいます。また実質的にも借家人が経過年数10年で毀損させた場合と1年で毀損させた場合、当然前者の方が経年変化や通常損耗は大きくなり、修繕費の負担が同じだとしたら不公平になります。そこで借家人の負担については建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多い程負担の割合を減らすことになっているのです。

A+Gグレードアップに係る費用

グレードアップとは、新しい入居者を確保する為に貸主が行う物件設備の交換やリフォームを指します。例えばバスタブの交換やトイレの交換、ウォシュレットの取り付け、床暖房の導入、クーラーや照明設備の交換等が該当します。これらは賃貸物件としての商品価値を上げる為に施すものです。賃借人が費用負担する必要はありません。

ワンポイントアドバイス
原状回復義務が発生するのは不注意や過失によるシミや傷等「善管注意義務違反」のケースやタバコのヤニやネジ穴、カーペットの敷き替え等「不適切な管理や通常の使用を超える」ケースですがその場合でも負担額は一定の基準に沿って減らされることになります。

退去時に原状回復のトラブルを防ぐ為に知っておきたいこと

退去時には損耗や毀損の発生時期やその修繕に係る費用の内どこまでを借家人の負担とするかでも揉めることがよくあります。ここでは退去時に原状回復のトラブルを防ぐ為に知っておきたいことを解説します。

退去時に物件の状況を確認しておくことが重要

原状回復を巡るトラブルの大きな原因として入居・退去時点において物件の損耗の有無等を十分に確認できていないことが挙げられます。長期契約が前提となる居住用の建物の賃貸借契約では当事者間の記憶だけでは曖昧になり損耗の有無や箇所及びその発生時期等を巡って退去時にトラブルになることが多いのです。

チェックリストで確認を

トラブルを防ぐためには入居時や退去時にチェックリストを作成し、損耗等の箇所や程度、原状回復の内容について十分に確認することが重要と言えます。このとき、それらの状況を部屋の間取り図に直接書き込みをしたり、写真を撮る等分かり易い形で残しておくと効果的でしょう。

チェックリストは貸主立会いの下部位ごとに作成を

玄関では天井、壁、インターフォン、鍵、トイレでは便座、ドア、水洗タンク、浴室では天井、床、壁、シャワー、浴槽といった風に部位ごと項目を細かくに分け貸主立会いの下一か所ずつ確認するのが重要です。こうしたチェックリストは後にトラブルとなり訴訟に発展した場合にも証拠資料になり得るので、迅速な解決の為にも有効と言えます。なおチェックすべきポイントはガイドラインに掲載されています。

ワンポイントアドバイス
原状回復でトラブルにならない為には入退去時に損耗等の箇所や程度、原状回復の内容について貸主立会いの下十分に確認することが重要です。チェックすべきポイントはガイドラインに掲載されています。

退去時の原状回復でトラブルになりがちなケース

一口に賃貸借契約といってもその内容は多岐にわたり、揉めるケースはさまざまです。最後に退去時の原状回復でのトラブルで多いものについて解説していきます。

クリーニング特約について

賃貸借契約では「契約自由の原則」によりさまざまな特約を設けることができます。これに関してトラブルが多いのが「クリーニング特約」に関するものです。

通常クリーニング費用を賃借人に請求することはガイドラインに反する

退去時のトラブルに多いのが「ルームクリーニング」に関する費用負担です。借家人の通常の使用で生じた損耗も自身で回復せねばならないとする「クリーニング特約」が定められているケースではその有効性について揉めることがよくあります。しかし原状回復の一般原則においては、借主が退去時に貸室を適切に清掃して退去した場合は、部屋のルームクリーニング費用を請求することはガイドラインに反する内容とされています。そのため通常はクリーニング特約は認められません。

条件に合致すれば有効

しかし条件に合致すれば認められるケースもあります。ガイドラインは、原状回復義務を超える修繕義務を借主に負担させるための契約・特約内容については「特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること」「賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること」「賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること」の3つを満たしている場合のみ有効としています。

負担割合の考え方が難しい事例も

原状回復は、基本的に毀損部分の復旧です。補修工事が可能な最低限度を施工単位とします。原状回復の義務があるA+B(不適切な管理や通常の使用を超えるもの)の場合もこれに則した費用分を借家人は負担することになりますが、中には範囲の判断が難しいケースもあります。

毀損部分と実際の補修箇所にギャップがある場合

借家人の負担対象範囲で問題となるのが、毀損部分と補修工事の施工箇所にギャップがあるケースです。例えば壁等のクロス(壁紙)の場合毀損箇所が一部分であっても、他の面との模様や色を調和させないことには賃貸物件としての商品価値を維持できないことがあるため、部屋全体の張替工事を行うケースが多いです。この場合借家人の張替え義務はどこまでの範囲かが問題になります。

借家人の負担は毀損した箇所を含む面のみ

これに関して例え部屋全体のクロスの柄が一致していなくても賃貸物件の本来の目的“居住”は果たせるので、部屋全体のクロスを張り替えることは商品価値を増大させる意味合いが大きいと言え、グレードアップの要素が多分に含まれると考えるべきです。それゆえガイドラインはこの場合、借家人は部屋全体のクロス張替えの費用を負担する必要はなく毀損した箇所を含む面の費用を払えばよいとしています。

ワンポイントアドバイス
特約は必要性や双方の合意があること等一定の条件に合致しないケースでは基本的に認められません。

原状回復ガイドラインにまとめられた退去時に借家人に発生する原状回復義務を総合すると“社会通念上、常識範囲を超えた使用で発生した損耗や毀損”は負担しなければならないことになりますが、必要以上の負担はしなくてもよいことになります。もし、退去時に想定以上の現状回復費用を出すように不動産屋や貸主から要求されたら、鵜呑みにせずに、不動産に強い弁護士に相談してみるとよいでしょう。

不動産の法律問題は弁護士に相談を
複雑な不動産の売買契約・建築にまつわるトラブルは法律のプロが解決
  • 不動産購入・売却時の支払い・手付金に関するトラブル
  • 土地・物件の瑕疵責任にともなうトラブル
  • 不動産の契約に関するトラブル
  • 売主・買主・仲介会社間での意見の食い違い
  • 法律・条例をふまえた適切な開発計画の策定
上記に当てはまるなら弁護士に相談