こんなケースでも罪になる③〜痴漢で逮捕されるケースとは?〜

この記事で分かること
  1. 痴漢は強制わいせつ罪、もしくは都道府県の迷惑防止条例違反にあたります。
  2. 強制わいせつ罪は親告罪なので示談交渉が重要になります。
  3. 逮捕されたら、できるだけ速やかな弁護士に依頼ことが大切。

強制わいせつ罪は、罰金刑がなく懲役になります。一方条例違反の場合は公共の場所でのわいせつな行為に限定されます。下着の中に手を入れるなど、行為の様態が悪質であれば強制わいせつ罪になる可能性があり、罪も重くなります。

痴漢を規制する法令

「痴漢」という言葉は刑法にはない言葉です。当然「痴漢罪」という犯罪もありません。「痴漢」が該当する犯罪は何か、法定刑はどのようなものか、基本的な事項から説明していきます。

痴漢は強制わいせつ罪

「痴漢」を「電車等の混雑を利用して主に女性の体を触るなどのわいせつな行為をする男」と定義した場合、通常、逮捕される可能性がある罪状は強制わいせつ罪(刑法、以下、法令名なき時は同法、176条)と都道府県の迷惑防止条例違反です。

強制わいせつ罪の構成要件(犯罪として法律上規定された行為の類型)は①13歳以上の男女に対し、②暴行又は脅迫を用いて、③わいせつな行為をした、(④わいせつ行為が性的意図の下に行われること)、若しくは❶13歳未満の男女に対し、❷わいせつな行為をしたこと、です。④については条文にはない要件ですが、最高裁判決(最判昭和45年1月29日)で必要とされたものです。痴漢事件であれば、この点が問題になることは少ないでしょう。法定刑は6月以上10年以下の懲役です。

暴行と脅迫の程度

 
強制わいせつ罪における暴行・脅迫の程度については2つの考え方があります。1つは「被害者の意思に反してわいせつな行為を行うに足りる程度」で、もう1つは「被害者の反抗を著しく困難にする程度」です。しかし、電車内の痴漢が衆人環視の中、被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を行うことはあまり考えられません。混雑に乗じてわいせつな行為を行うのが通常でしょう。

わいせつな行為とは

わいせつな行為とは、公然わいせつ罪(175条)、わいせつ物頒布等罪(176条)のわいせつと同様に「徒(いたず)らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」(最大判昭和32年3月13日)と言えるでしょう。しかし175条、176条は社会的法益としての健全な性風俗や公衆の性的感情を保護法益とするのに対して、強制わいせつ罪は個人の性的自由を保護法益としていますから、その概念は少し広く考えられます。たとえば電車内で前に立っている女性にいきなりキスをしたら、公然わいせつ罪にはあたりませんが、強制わいせつ罪は成立するでしょう。

迷惑防止条例での逮捕

痴漢での逮捕が、強制わいせつ罪ではなく都道府県の迷惑防止条例が適用される場合も考えられます。

東京都なら条例で6月以下の懲役も

各都道府県では強制わいせつ罪に至らないレベルの痴漢を規制するための迷惑防止条例が制定されています。東京都であれば「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」がそれに該当します。「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」(同条例5条1項1号)が痴漢に対する規制で、禁止されている粗暴行為の一つとして挙げています。違反者は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(同条例8条1項2号)。

ワンポイントアドバイス
痴漢をして強制わいせつ罪で逮捕か、迷惑防止条例で逮捕かにはどのような違いがあるのでしょうか。一般的な基準としては洋服の上から触れば迷惑防止条例、洋服(下着)の中に手を入れたら強制わいせつと言われているようです。

強制わいせつと迷惑防止条例違反の事例の違い

実際に強制わいせつ罪と条例違反で起訴された事例を比較してみましょう。

強制わいせつ罪での逮捕例

強制わいせつ罪での逮捕は、やはり悪質なものが多いことが分かります。事例としてあげたのはともに、下着の中に手を入れています。

陰部に指を入れた事例

最決平成22年7月26日(有罪) 被告人は電車内で19歳の女性に対してそのスカートの中に右手を入れて下着の上から陰部をなでた上、下着の中の陰部に指を入れたという事案です。最高裁で有罪が確定した後、再審請求もされましたが、棄却されました(東京地決平成25年8月28日)。

被害者に全治1か月の傷害を負わせた事案

東京高判平成12年2月21日(懲役2年6月) 被告人は電車内で16歳の女性に対して、左手を下着の中に入れて、陰部を撫で回したという容疑で起訴されました。被害者に右腕を掴まれて逮捕されそうになったので強く振り払い、被害者に全治1か月の傷害を負わせました。強制わいせつ致傷罪(181条1項)が成立した事案です。

迷惑防止条例での逮捕例

迷惑防止条例違反で起訴された事例です。強制わいせつ罪に問われた行為ほどの悪質さはないと言えそうです。

臀部に股間を押し付ける行為

神戸地尼崎支判平成26年3月18日(無罪) 被告人は電車内で25歳の女性の臀部に自己の股間を、およそ2分間に渡って押し付けたと被害者が主張したものです。「被害者は男性器が当たっていると思い身をよじって逃れようとしたが、車内が混んでおり実際には全く動けなかった。その後被害者は臀部に意識を集中させたところ人肌を感じた。感じた時間は20〜30秒程度である。被害者はこれにより痴漢をされていると思った」と供述しましたが、判決は無罪でした。

「(被告人の)供述内容と痴漢行為とは基本的に相容れないものと考えられる上、本件電車内での被告人の状況等からして被告人のかばん等が意図せず被害者の臀部に当たり続けていたことは十分に考えられるのであり、この点からしても被告人が本件犯行を行ったと考えることには(そもそも本件の事件性自体についても)少なくとも合理的な疑いが残る」というものでした。

女性の足の間に、足を差し入れる行為

名古屋高判平成22年11月24日(罰金50万円) 被告人は電車内で28歳の女性に対して、背後からその両足の間に右足を差し入れて動かし、同女の両太股付近にすり付けるなどしたというものです。「女性の背後にいた被告人の右足が本件女性の両足の間に入り込み、駅に到着するまでの間の約15分間その状況が続いた」といいます。また、「被告人の右足の動きは走行中の列車の揺れに従って動いていたようなときもあったが列車の揺れとは関係なく動いていたこともあった」というものです。

スカート内に手を入れて太ももを触る行為

大阪高判平成17年10月25日(懲役5月) 被告人は電車内で22歳の女性に対して、スカートの中に手を入れてその大腿部を触るなどしたという事案です。強制わいせつ罪の執行猶予中の犯行とあり、一審の実刑判決を維持しました。

ワンポイントアドバイス
強制わいせつ罪での逮捕であっても、迷惑防止条例での逮捕であっても、痴漢行為は悪質であり許されるものではありません。一方で、主に混雑した電車の中での出来事が多く、痴漢をされたと勘違いされてしまうことも少なくありません。難しいかもしれませんが、勘違いされないような工夫も必要です。

痴漢事件では示談が重要

痴漢という罪を犯した以上刑事責任を負うのは当然です。しかし、被害者がそれを望まない場合もあります。

強制わいせつ罪での示談

強制わいせつ罪で逮捕された場合、被害者と示談が成立した場合、公訴提起されない可能性が高くなります。

強制わいせつ罪は親告罪

強制わいせつ罪は親告罪(180条1項)です。「第176条から第178条(強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪、準強姦罪)までの罪及びこれらの未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定されています。これは訴追によって被害者の名誉等が傷つけられることがあるため、被害者保護の見地から定められたものです。

弁護士による示談で不起訴の場合も

被疑者が逮捕された後、弁護人を選任した場合、弁護士は被害者との示談交渉を行います。公訴提起前に示談が成立した場合であれば、告訴を取り下げてもらうことも可能です。その場合、検察官は公訴提起ができません(刑事訴訟法237条1項参照)。公訴提起後に示談が成立することもありえます。その場合はもはや告訴は取り下げられませんが、被害者の宥恕があったということで量刑に影響を与える可能性はあるでしょう。

迷惑防止条例での逮捕での示談

迷惑防止条例で逮捕された場合、示談の効力はどのようなものになるでしょう。

迷惑防止条例は強制わいせつ罪と違って親告罪ではありません。そうなると示談が成立して被害者が告訴(被害届)を取り下げても、検察官は公訴提起ができます(刑事訴訟法247条参照)。もっとも悪質な手口でつかまった場合は示談で起訴を免れ、悪質ではない手口の場合には起訴を免れないというのも衡平さを欠きます。

迷惑防止条例違反での示談の効果

迷惑防止条例違反でも示談が成立していれば、起訴猶予とすることは少なくないようです。検察官は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」(刑事訴訟法248条=起訴便宜主義)と規定されています。その判断において示談があったことが考慮されるのは間違いありません。もっとも、常習性があったり、強制わいせつ罪で執行猶予中であったりなどの事情があれば起訴することは十分に考えられます。

ワンポイントアドバイス
痴漢で逮捕されたら、示談を考えることが重要です。示談を成立できれば、親告罪である強制わいせつ罪での逮捕の場合、不起訴になる可能性があります。迷惑防止条例違反の場合でも起訴猶予になることもあり、示談がいかに重要であるかが分かります。

痴漢で逮捕されたら弁護士に相談!

実際には痴漢をしていないのに、痴漢を疑われることは少なくありません。痴漢で逮捕されると、その犯罪の性質上、周囲からも非常にネガティブな目で見られるようになり辛いものです。もし、痴漢の疑いをかけられたら、速やかに弁護士に相談しましょう。痴漢を本当にしてしまったのであれば示談交渉をすることができますし、もし本当は痴漢をしてないのであれば、冤罪であることを主張する必要があります。いずれにせよ、被害者がいる中で加害者だけで対応することは困難です。刑事事件に強い弁護士なら、加害者にとってできるだけ有利な交渉を進めてくれるでしょう。

刑事事件はスピードが重要!
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
23日間以内の迅速な対応が必要
不起訴の可能性を上げることが大事
刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実
上記に当てはまるなら弁護士に相談